本記事は、当社のアドバイザーであり、長年にわたり大手コンビニエンスストアで様々なご活躍を重ねてこられた小林敏郎氏によるものです。本シリーズは三部構成になっており、小林氏によるユニークな視点でリテールとメーカーにおける商品情報の課題やデータ連携の価値について焦点をあてて執筆いただきました。
この記事では、筆者が考えるリテールとメーカーのデータ連携により、どのような価値が産み出されるのかについて、これまでの経験を踏まえて3章に分けて解説していきたいと思います。皆様のビジネスに少しでもお役に立てれば幸いです。
はじめに
はじめに、この記事の章立てについて簡単に説明します。第1章では「リテールにおける『商品情報収集』の課題」と題して、主に商品情報収集の現状や必要な情報について解説し、続く第2章「リテールの形と情報のカタチ」においてリテールの形態と必要な情報について整理します。最後の第3章「データ連携が創る未来」では、データ連携がどのような価値を産み出すのか筆者の希望も含めて考察、予測します。ぜひ読者の皆様もご自身の業務に当てはめて考えながらご覧ください。
商品情報の定義
「商品情報」とは何でしょう?字面からは商品に関連する情報ということは分かりますが、商品といってもいろいろなカタチがあります。例えば食品や日用品といった有形の財もあれば、保険や旅行といった無形のサービスもあります。本記事では論点を分かりやすくするために対象とする「商品」は有形物とし、加えてBtoCで取引されることを前提にします。
この場合、商品情報として考えられるのは例えば食品であれば 商品名/メーカー名/価格・原価(仕入値)/商品分類/発売日/JANコード/重量/原材料(生産地含む)/栄養成分/アレルギー情報/賞味期限(販売可能期間)/荷姿/包装形態/輸送時の温度帯/パッケージ画像/CM・チラシ等広告出稿情報/商品コピー(売り文句)/店舗POPデータ/配送方法/販売エリア/販売チャネル/利用・喫食方法/販売トレンド/問い合わせ先(コールセンター)/お客様からのレビュー 等々ざっと考えてみても多くの情報が挙げられます。また家電などの製品であれば説明書の情報や部品管理のための情報、安全性に関する適合情報なども必要になるでしょう。
このように対象商品を絞っても、商品情報には様々な情報が包含されていることがお分かりいただけたと思います。但し筆者はこれらの情報は
① 不変情報:規格/スペックに関するあまり変化しない情報
② 変動情報:規格/スペック以外の情報
の二つに大別できると考えています。
商品情報の収集方法
では、前項で定義した商品情報をメーカーやリテールはどうやって収集しているのでしょうか?メーカーとリテールでは商品情報の利用目的が異なるのでそもそも必要な情報が異なりますが、前項で触れた不変情報の大部分についてはメーカー側が用意し、リテールに提供しています。例えば、リテール側が用意したリテールサイドで必要な情報(=商品マスタ一)をメーカーのリテール担当者(いわゆる営業担当者)が、リテール側が用意した定型フォーマットに記載して提出するのが一般的でしょう。一方で、変動情報については様々な手法で収集/提供されています。例えば、広告出稿の情報は出稿内容や投下量が時期により変動しますから、都度メーカーの営業担当者からリテールの担当者(いわゆるバイヤーなど)に定期的に行われている商談などで伝えられることが多いでしょう。
また、よく商品のパッケージに「NO1ブランド」のようなキャッチコピーが入ることがあると思いますが、これは各メーカーが調査会社等からランキングデータを購入して表示する場合が多いです。加えて口コミ情報などは利用方法により入手手段は異なりますが、例えば「お客様の〇〇%が満足」のような対外的に公表するような情報であれば、調査を実施して収集しますし、対外的な利用をしない場合・・・例えば商品の開発者などが商品の口コミ情報を確認したい場合など・・・にはSNS等をチェックして情報を収集する場合もあります。余談ですが、筆者が以前勤務していたコンビニエンスストアの優秀な商品開発担当者の場合、売上の情報はもちろん口コミ情報を頻繁にチェックして、商品の改善に大いに活用していました。
このように、不変情報についてはメーカー⇒リテールへの提供がメインとなるため大きな問題は無いように見えますが、以前寄稿した「今なぜ商品マスタなのか」で解説した通り、リテール各社で「必要な情報項目が異なる=商品マスタが異なる」ため、各メーカーの営業担当者が商品情報をリテールに提供する際には大きなコストがかかっているのが現状です。また、変動情報の場合には、情報自体が時系列で変動するのはもちろん、収集したタイミングや収集した手法/ソースおよび、収集した担当者のスキルなどによって情報自体がバラつく可能性が高いことが課題となります。
必要な情報について考える
続いて、これからの時代に必要な商品マスタの構築に必要な情報について考えてみましょう。こちらについて考える際に最初に考慮すべきなのはその情報の利用目的です。そんなの当たり前と思われる方も多いと思いますが、これがなかなか上手にできている企業は少ないのではないでしょうか?なぜなら、全社横断的に必要な情報を洗い出す作業ができていないことが多いからです。
小売りの場合、例えば商品のバイヤーは商品マスタに登録する情報が最低限必要です。一方、店舗運営サイドでは、対象商品の販売数値情報(売上や利益の情報等)はもちろん、TVCMやTV番組での露出情報や、口コミの情報、季節指数や他社での販売価格といった情報が大変重要になってきます。加えて、HPやアプリ、ネットスーパーなどWeb系のメディア/チャネルではシズル感のある商品画像や利用シーンがわかるような画像や動画、食品の場合にはレシピ情報なども必要になるでしょう。
またまた余談となりますが、以前勤務していたコンビニエンスストア在職時には、広報部門が特定商品のリリースを出す際に「累計〇億個販売!」や「〇秒に一個売れてます!」といったキャッチコピーを付けることがよくありました。特に、累計販売数はそもそもデータを計算して保存などしていないので、過去に遡ってデータを集計する必要がありました。実際データを取得する立場だった筆者は「面倒だなぁ」と思っていたことは内緒の話ですが、これも一つの情報のカタチですよね。
このように、一つの事業体の内部でも部門によって必要な情報は多種多様です。こういった各部門で必要とする情報を一元的に収集/管理/運用している企業は極めて少ないと思います。しかしながら、AIが驚異的な進歩を遂げている現在、この商品情報を効率良く管理している企業には大きなアドバンテージがあると考えています。
まとめ
「第1章:リテールにおける『商品情報収集』の課題」はいかがだったでしょう。最後に、課題について簡単にまとめてみようと思います。
一つ目の課題は、メーカーからリテールに商品情報が提供される際の課題です。リテール各社で必要な商品情報の項目が異なるのでメーカー側はリテールに合わせた商品情報提供が必要となり大変なコストがかかっています。このコストは結局商品価格に反映され、消費者サイドが負担していると考えるとなんとも無駄なコストです。
二つ目の課題は、商品情報、とりわけ変動情報にバラツキがあるという課題です。変動情報はその情報を必要とする各社の担当者が収集すると想定しており、収集担当者のバイアスが相当反映された情報になると考えています。例えば、読者のなかには調査を実際に担当したことがある方もいらっしゃると思いますが、調査の場合には設問の内容や選択肢の出し方によって結果がかなり変わります。特に調査会社の専門家以外が調査票を作成する場合は要注意です。調査票作成者の思い込みバイアスが大きく反映される場合があるからです。
三つ目の課題は、各企業内での商品情報の一元的な収集/管理/運用に関する課題です。現状、部門もしくは業務目線で部分最適化された商品情報が分散して存在していることが多く、例えば拡張したい商品情報があった場合には各部門、各業務担当がそれぞれ拡張しているのが現状ではないでしょうか。そのためのコストはもちろん、今後のAI・DX推進時に一元的な商品情報が必要になった際の統合コストを考えるとクラクラしてきます。
最後までご覧いただきありがとうございました。第2章、第3章も併せてご覧ください。
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