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ウォルマートのVibe.co買収が示す本質|Lazuli Executive Briefing 2026.6.26

ウォルマートのVibe.co買収が示す本質|Lazuli Executive Briefing 2026.6.26

生成AI

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こんにちは。

Lazuli CEOの萩原です。


このたび、日本のエンタープライズ企業がデータとAIを武器に世界で勝ち抜くための、経営視点での「次の一手」のヒントをお届けしたく、情報発信をスタートすることにいたしました。

私は日頃、多くのエンタープライズ企業の経営者や、データ/AI領域の責任者の方々とお話しする機会をいただいています。

話題はAIの精度や実装だけではありません。

「AIをどう事業成果につなげるか」

「組織としてどう推進すればよいのか」

「戦略と現場の実行をどうつなぐか」

こうした、事業会社ならではの悩みや課題についてお話しすることが大変多いです。

その中で感じるのは、AIやデジタルに関する情報は世の中にあふれている一方で、Executiveの方々がそれを「自社にとって何を意味するのか」「何を優先して取り組むべきなのか」まで整理する時間は、なかなか取れないということです。

Lazuliは、AIスタートアップとして世界中のデジタルやAIの動向を追いながら、多くの企業の皆さまと現場で向き合っています。

だからこそ、この記事では最新ニュースを紹介するだけではなく、その背景にある本質や、日本企業にとっての意味、そして経営や事業運営にどう生かせるのかという視点も交えながら、厳選した知見をお届けしたいと思っています。

皆さまが次の一手を考える際の、小さなヒントとなるような情報をお届けできれば幸いです。

さっそくですが、今日はウォルマートのアドテクスタートアップ買収ネタからお届けします。

ウォルマートのVibe.co買収が示す本質——「棚」の次は「画面」が戦場になる

ウォルマートが6月23日、コネクテッドTV(CTV)向け広告プラットフォームVibe.coの買収を発表しました。金額は14億ドル(2200億円超)、2027年1月期末までのクロージングを見込んでいます。

この動きをテック企業としてのウォルマートによる、ただの「広告事業の拡張」と読むと、本質を見誤ります。

Vibe.coとは何か——「テレビ広告のメタ化」を目指した会社

まずVibe.co自体を理解することが重要です。

2021年創業のVibe.coは、ECブランドや成長段階の中堅・中小企業向けに、CTV広告を自社運用できるプラットフォームとして構築されました。買収時点で1万社超の広告主を持ち、調達総額は7,250万ドルに上ります。

同社のCEOであるアーサー・ケルーが創業時から掲げてきたコンセプトは明快です。「テレビ広告を、ソーシャル広告と同じように、計測可能で、素早く出稿でき、成果に向けて最適化できるチャネルにする」というものです。

具体的には、500以上のチャンネルへのターゲティング配信、AIによるキャンペーン最適化、そして10秒以内にテレビ用広告素材を生成できるAIクリエイティブツール(Vibe Studio)を備えています。

またKlaviyo、Shopify、Google Analyticsなど20以上のプラットフォームとの連携も整備されており、ECブランドが既存のマーケティングスタックとシームレスに接続できる設計になっています。

売上高の年率換算が1億ドルに達するまで2年未満という成長速度は、ソフトウェア企業として上位10社に入るペースであり、専門的なメディア運用チームや大予算がなくてもCTV広告に参入できるという需要の大きさを示しています。 

要するにVibe.coは、これまで大手広告代理店や大企業だけが使えたテレビ広告という手段を、中小・中堅ブランドでも扱えるインフラに変えようとしてきた会社です。

「棚代」から「広告料」へ——小売の収益構造が変わる

これまで小売業者の収益モデルの中心は、商品の販売益と、メーカーからの販促協力費(いわゆる棚代・リベート)でした。しかし、AmazonはすでにAmazon Advertisingで年間約5兆円超の広告収益を上げており、その利益率は物販を大きく上回ります。

ウォルマートがVibe.co買収で狙っているのは、Vibe.coの自社運用型CTVプラットフォームと、ウォルマートが持つ購買行動データ・閉じたループでの効果測定機能を組み合わせることです。「どのCM露出が実際にどの商品の購買につながったか」を可視化し、その精度の高さを広告価値として売る。広告主からの収益を、物販や棚代に依存しない第三の柱として育てようとしています。

ウォルマートは週に約2億8,000万人の顧客を抱えており、この実際の購買行動データに基づいたターゲティングは、単なる「購買意向シグナル」ではなく、リアルな小売購買実績に直結した広告帰属を可能にします。これはAmazonやGoogleには持ちえない独自の価値です。

日本の小売業者もこの潮流から無縁ではありません。リテール大手各社は自社の購買・行動データを活用した小売メディアネットワーク(RMN)の整備を進めており、今後2〜3年でこの収益モデルは日本でも本格化していくでしょう。

小売経営者の検討テーマ:自社の購買データは、広告商品として設計されているか。

CPGブランドにとっての構造変化——「出稿先」が変わるのではなく「審査官」が変わる

CPGメーカーの広告担当者にとって、今起きていることの意味はより深刻です。

これまでテレビCMは、視聴率とブランド認知を指標に評価されてきました。しかし小売メディアが高度化すると、広告の評価軸は「認知」から「購買転換率」に移ります。ウォルマートやAmazonのプラットフォームで広告を出す限り、その効果は購買データと突き合わせてリアルタイムに採点されます。

さらに重要なのは、「誰が広告の出し方を決めるか」が変わる点です。Vibe.coのような自社運用型プラットフォームの普及は、大手代理店を介さずとも中小ブランドや新興メーカーがCTV広告に直接参入できることを意味します。

CTV広告市場は2035年までにソーシャル広告を上回る規模に成長するとも予測されており、DtoCブランドやInstagram広告主がなだれ込んでくる可能性があります。棚では戦えていたブランドが、画面でも戦わなければならない時代が来ます。

CPGブランド経営者の検討テーマ:自社の広告戦略は、購買データと紐づいた成果で評価される時代に対応しているか。

検討すべき論点

小売業者であれば、自社の購買データをどう広告価値に変換するか、RMNの収益化戦略を今期の経営議題に載せる時機です。

CPGブランドであれば、テレビ・デジタル・小売メディアの三層での広告戦略を統合的に設計し、「購買転換」を共通指標とした投資配分の見直しを検討するタイミングになるでしょう。

このように、小売・CPGの双方において、これまでのビジネスの「前提」がデータによって塗り替えられようとしています。

そして、この変化を勝ち抜くための最大の鍵は、AIのアルゴリズムそのものではありません。その基盤となる「製品データや購買データが、戦略的に活用できる形に整理されているか」という、極めて本質的な土台にあります。データの精度が、そのまま経営判断とマーケティングの精度に直結する時代が、すでに始まっています。

この記事では、今後もこのように「世界の潮流」と「日本企業が今すぐ打つべき具体策」を繋ぐリアルな知見を、厳選してお届けしてまいります。

皆さまの次の一手を動かす、有益なディスカッションの契機となれば幸いです。

随時、AIをはじめ最新テクノロジー市場動向や、リテール&CPGのトレンドなどを中心にお届けする予定です。次回もぜひご期待ください。

末筆ではございますが、皆さまのますますのご健勝と貴社のさらなるご発展を心よりお祈り申し上げます。

どうぞよろしくお願いいたします。


萩原 静厳
CEO, Lazuli株式会社