最新のリテールトレンドとデータ・AI活用戦略を紹介する3部構成のイベントレポート。専門家に解説いただいた具体的事例と戦略について紹介します。
Contents
本レポートでは、2024年6月24日に開催されたShoptalk Europe & NRF APAC報告会の内容についてまとめています。最新のリテールトレンドと日本の流通・小売業のデータ・AI活用戦略について、各セッションのハイライトを紹介します。
Shoptalk Europe報告〜EU圏の最新リテールトレンド〜
株式会社ヤプリ エグゼクティブ・スペシャリストの伴大二郎氏からEU圏の最新リテールトレンドが紹介されました。米国と同様に、EUでも従来のファネル型マーケティングが崩壊し、ユニファイドコマースへの再構築が進んでおり、4つのポイントを中心にしたリテール再構築の事例が紹介されていました。
・生成AIの活用
・次世代のカスタマージャーニー
・ブランドパワーの見直し
・ユニファイドコマース
いくつかの生成AIの事例のなかで、Walmartは「Shop with Friends」などバーチャル空間で友人と買い物体験を共有できるサービスなどを展開し新たなサービスを提供しています。
また生成AIの登場により、キーワード検索から解決したいジョブでの検索に移行することで、購買目的軸でデータ収集することができ、商品レコメンドの幅が広がり、顧客体験が劇的に向上していきます。
コスメブランドのL’Oreal社では顧客の理想の化粧品をリアルタイムで具現化するバーチャル体験やパーソナライズされたAIエージェントを活用し、顧客の購買体験を向上させています。また、店舗では顧客の肌の状態をリアルタイムで計測し、即時に接客に活用するシステムを導入することで、顧客満足度を高めています。
Shoptalk Europeでは、単なるオンラインとオフラインでの購買チャネルではなく、ユニファイドコマースへの変革が強調され、商品データ、顧客データ、生成AIを中心に一貫して顧客体験の向上が重要視されました。STANLEYやWAITROS、JOHN LEWISなどここでしか伺えない事例を多くうかがいました。
クーポンやキャンペーンなどのファンクショナルなポイントだけでなく、ブランドとして一貫したパーソナライズかつエモーショナルな購買体験を提供することが今後のトレンドになるとの見解が示されました。
NRF APAC報告〜APAC圏の最新リテールトレンド〜
株式会社IBAカンパニー代表取締役の射場瞬氏、一般社団法人リテールAI研究会理事の林拓人氏、Lazuli株式会社執行役員の北庄司英雄の3名でAPAC圏の最新リテールトレンドについてディスカッションされました。NRF APACはアジア初開催で、全体で7,000人が参加登録し、そのうち約400人が日本人でした。Lazuli株式会社としても初の海外出展となり、Facebookグループで日本人コミュニティを立ち上げ、現地では学びのインプットとアウトプットの場を提供するなど、参加者からご好評をいただきました。
リテールAI研究会主催の現地視察ツアーは参加者の熱量も高く盛り上がったが、紹介されたAIやテクノロジーを現場で実践するイメージが湧かないことが課題として挙がっていたとの振り返りも共有されました。
印象的だったイオン株式会社のセッションでは、イオンが17,000店舗を保有し、その99%が実店舗での売上を占めるなか、イオンはLIFE TECHとして「Warm Colorful Experience」をテーマに掲げ、
・顧客情報の一元化
・カスタマーデジタルツイン
・分析の内製化
・顧客価値の提供プロセスの統合
を全社で推進していることが紹介されました。顧客との感情的なつながりを重視し、デジタル技術を活用してパーソナライズな顧客体験を向上させています。
また、Coca-Cola社のSimon Miles氏によるリテールメディアのトレンドについても解説されました。リテールメディアについては、① 店舗内における配置、② コネクテッドTV、③ 内製化が進んでいるとされています。消費者の80〜90%は実店舗で購入するため、デジタルスクリーン、Scan&Go、セルフレジ等の店舗内での体験が重視されています。
重要なポイントは、消費者の生活の改善に繋がる事へフォーカスすること。その上で、ブランドと小売、社内の部署間全てが協力し、明確な理解を深め、能力・機能を整えることがWin-Win-Winを可能にする、真の協力の実現に向けて企業間の「信頼」が重要であるとまとめられました。
多くの日本の小売業にとって、顧客データと商品データを組み合わせたデータ活用はまだ発展途上です。顧客の価値観をリアルタイムに掴むために、メーカーとリテールは、今まで以上の信頼関係を構築し商流を超えたデータの共有と整備を行うことが求められています。 Lazuliは流通業界が使えるAIを活用したプロダクトデータプラットフォーム「Lazuli PDP」を提供し、企業のデータ活用を促進する取り組みを行っています。すでにベイシア社やアサヒビール社、ニトリ社など大手企業での導入も進んでおります。リテールAI研究会主導の「J-MORA」とも柔軟に連携し、ともに業界共通で使用可能な商品データの市場を作っていきたいと考えています。
日本の流通・小売業が取り組むべきデータ・AI活用戦略とは
企業のデータ活用を支援する株式会社ブレインパッド代表取締役CEOの関口朋宏氏とLazuli株式会社の代表取締役萩原のセッションでは、日本の流通・小売業が取り組むべきデータ・AI活用戦略についてディスカッションが行われました。 日本国内で現時点で分析可能なデータは15%に過ぎず、実際に分析に利用されているデータはわずか3%という状況のなか、日本のビッグデータ活用・アナリティクスの国際的順位が最下位であり、大幅に遅れていることが示されました。
データとAI活用の現状として、マーケティングとサプライチェーンの二つの視点から語られました。また、日本におけるデータ活用やDX推進が進まない背景として、活用するもととなるデータの整備に時間がかかっていることが挙げられています。
日本ではCRMへの投資がまだまだ広告費に劣っている状況が続いていますが、今後は顧客データと商品データの両方を整備し、有益なデータ活用の実現に再度立ち戻っていくであろうとの見解を示しました。
また、マーケットが多様化する中で、顧客にとって最適な体験を提供するためには、マーケティングからサプライチェーンまでが一丸となって「デマンドチェーン・マネジメント」に取り組む必要があると強調されました。
企業は、社内データの整備にコストをかけるよりもLazuli PDPのようなクラウドサービスを活用し、データの統合やユースケースに応じた商品データの生成を行い、ブレインパッド社のようなデータ分析のプロの力を借りながら利益につながるインサイト出しと施策の実行に注力したほうがいいとの意見もありました。
生成AI活用については、欧米ではAI活用の倫理やスタンスを各企業が明確に提示しており、AIを使ってやるべきことやらないことが明確になっています。一方、国内では倫理やハルシネーションの課題があるため、顧客接点での活用にはまだまだ慎重となっています。しかし、これを例えば、事前に顧客の許可を得るチェックボックスを設けるなどちょっとした工夫で解決したり、人がやっている仕事を代替するのではなく、商品開発の膨大なリサーチなど今まで人が手に負えなかった分野での活用の方がスムーズな導入ができるのではないかといった議論が行われました。
まとめ
Shoptalk Europe & NRF APAC報告会では、最新のリテールトレンドとデータ・AI活用戦略が紹介されました。Shoptalk Europeでは、生成AIを活用したユニファイドコマースの進化が強調され、ウォルマートやロレアルをはじめとした多くの企業・ブランドの事例が具体的に示されました。 NRF APACでは、イオンの取り組みやリテールメディアのトレンドが議論され、日本の小売業界にとっても重要な示唆が得られました。Lazuli PDPは、プロダクトデータプラットフォームの先駆けとして今後の「顧客データ × 商品データ」の実践において活躍が期待されており、業界全体での商品データ連携とAIの活用に貢献します。