
明治グループが挑む「商品データのAI-Ready化」:Product Data Future Session
「Product Data Future SessionーAI時代の商品データ未来会議」は、AI時代に企業が商品情報をどのように持つべきか、未来を見据えて語り合う対談セッションです。今回は、明治ホールディングス株式会社 グループDX戦略部の下平祥貴氏と、LazuliのChief Evangelist 伴大二郎との対談をレポートします。
商品データの「見えない資産化」問題
DXが加速する現在、製造業の競争力の源泉は「物理的な棚」から「データの質」へと確実に移行しています。しかし現実には、多くの大企業において商品情報は担当者のPC内に散在しており、部門をまたぐと途端に「どこに何があるかわからない」状態に陥りがちです。
明治グループも、かつてはその状況にありました。「各担当者のPCの中にカテゴリーごとのデータが点在していた」と、下平氏は率直に語ってくださいました。これは明治グループに限った話ではなく、多くの伝統的な大企業が共通して抱える「情報のサイロ化」の縮図と言えます。

(明治ホールディングス株式会社 下平祥貴様)
ハローパンダが教えてくれた「意図しない成功」の危うさ
そのサイロ化の深刻さを象徴するエピソードとして挙げられたのが、海外で大ヒットしている「ハローパンダ」の話でした。
実はこの商品、日本国内では株主優待などの限定的な用途にとどまっており、日本本社としては「早々に撤退し、当初はあまり期待していなかった」という経緯があったそうです。ところが、精巧な加工技術や独自のフレーバー展開が海外で支持され、各現地法人の取り組みによって「世界同時多発的なローカライズ」が進みました。気づけば拠点ごとにパッケージが独自進化し、本社がコントロールできない状況になっていたといいます。
一見するとサクセスストーリーに映りますが、裏を返せば「なぜ売れたのかが構造的に把握できていない」ということでもあります。データがなければ、次の成功を再現することも、横展開することもできません。属人的な「職人芸」による海外展開は、スケールしないのです。
データが明らかにした「日本の常識」という盲点
Lazuli PDPの導入は、社内データの整理にとどまらず、市場に対する解像度を大きく高めました。
自社商品と競合商品をシームレスに可視化した結果、APAC市場において「日本の常識とは異なるトレンド」が浮き彫りになってきました。たとえば、核家族化・小型化が進む日本とは対照的に、東南アジアでは「シェアして食べる」ための大容量パックが上位を占めています。またハラル対応は、現地ローカルメーカーが上位を独占するほど重要な要素です。
こうしたインサイトを「現地担当者が感覚的に知っている」状態から「データとして可視化されている」状態へと変えることで、マーケティングの打ち手を現地最適化する根拠が生まれます。明治グループが本来持つ強力な営業力を、データというインフラで最大化するプロセスとも言えます。

(Lazuli株式会社 伴大二郎)
「AIが理解できる商品データ」が、次の競争軸になる
下平氏の言葉の中で特に印象的だったのが、「コンテクスト(文脈)のデジタル化」という視点です。
対人営業が強みの企業ほど、商品の魅力は「人が説明することで伝わる」という感覚があるかと思います。しかしECやAIが主戦場になった今、その魅力を語ってくれる「人」が接点に存在しません。代わりに商品を選ぶのは、AIのレコメンドエンジンです。
生成AIが商品を正しく理解するためには、データの背後にある「意味」が構造化されている必要があります。オントロジーやセマンティック管理といった手法はまさにそのためのものであり、EC上での顧客体験のばらつきをなくす基盤にもなります。
加えてLazuli PDPでは、「AIが必要とするデータをAIを用いて生成する」という仕組みを採用しています。リソースを高度な意思決定に集中させながらデータ品質を担保できるこのアプローチは、DX推進の現場において非常に実用的です。
大組織を変えるのは「強弱のタクト」
ツールを導入するだけではDXは完結しません。下平氏が実践しているのは、社員のリテラシーに合わせた「強弱のタクト」です。
リテラシーが高く自走できる層には制約を設けず新しい挑戦を加速させる。一方、キャッチアップが必要な層には個別に丁寧なサポートを続ける。このアプローチにより、過去1年で情報システム部門と事業部の相互理解が大きく進み、社内での「会話の質」が変化してきたそうです。
大規模組織でのDX推進において、トップダウンの強制だけでは反発を招きやすいものです。個別の進捗に寄り添いながら成功体験を積み重ねていくアプローチこそが、文化としてのDXを定着させる近道だと感じました。
「2030年には勝負がついている」
対談の締めくくりに、下平氏が語った言葉が印象に残りました。「2030年には勝負がついている」。
その背景には、米国での動向があります。すでに生成AIベンダーとECのアライアンスが進んでおり、AIとの会話だけで購買が完結する未来は目前に迫っています。その世界では、AIに正しく理解・推薦してもらえる商品データを持つメーカーが圧倒的に有利になります。
今後2〜3年でデータを「AI-Ready」な状態に整えられるかどうかが、次世代のレコメンド経済でのシェアを左右する。明治グループが取り組むデータ整備は、その最前線に位置しています。

対談動画はこちらよりご覧いただけます:https://www.youtube.com/watch?v=lAyPK5SKeKM&t=227s
本記事は「Product Data Future Session - AI時代の商品データ未来会議」の対談内容をもとに作成しました。