
メーカー・小売の垣根を越えて語り合う、AI時代の商品データのあり方|Product Data Future Session 開催レポート
2026年7月8日、Lazuli株式会社はロート製薬株式会社 執行役員CIO 樋口 正也氏、同社DX推進室 データマネジメントグループ リーダー 坂口 真規氏をお招きし、「AI時代の商品データのあり方」をテーマに、メーカー・小売など商品データに携わる企業の担当者を集めたクローズドセッション「Product Data Future Session」を開催しました。前半はロート製薬様における商品データに関連したリアルな課題を共有いただきました。また、Lazuli Chief Evangelistの伴が海外企業のAI/データ活用トレンドについてお話しし、後半は参加企業を交えたディスカッションを行いました。
海外トレンドに見る、AIに「発見」される商品データ
前半では、Lazuli Chief Evangelistの伴 大二郎より、海外で急速に進む「エージェンティック・コマース」の最新動向が共有されました。
ユニバーサルカートが変える買い物の形
Googleが提唱する商品データの共通規格には、Amazonをはじめとする大手プラットフォーマーが相次いで足並みを揃え始めています。象徴的な事例が「ユニバーサルカート」です。検索・動画・メールなど複数のGoogleサービスを横断してカートの中身が引き継がれ、AIが在庫や価格の変動を判断して最適なタイミングでの購入を提案する仕組みで、伴は「買い物に行くのではなく、買い物がやってくる時代になる」と表現しました。
Googleが求める商品データの構造化ルール
こうした仕組みの土台になるのが、Googleが求める商品データの構造化ルールです。Q&A、人気度、関連商品、成分や取扱説明書へのリンク、商品グループの名称——これらが正しく整っていなければ、AIに正しく発見してもらうことはできません。海外ではAIが商品を評価する際、スペックそのものよりも「使った人の生の声」を重視する傾向が強まっており、レビューやQ&Aといったコンテンツの重要性が増しています。
ロレアルが自社の研究知見をAIに学習させ、ChatGPT上でバーチャルトライアルを提供している事例や、ノードストロームが会員データとAIによる接客を組み合わせている事例も紹介され、検索で上位に表示されることを競う時代から、AIに推奨されることが問われる時代への転換が示されました。伴は、商品を整理し、意味づけし、AIが正しく読み取れる形にし、常に鮮度を保ち、その効果を計測するという5つのステップが、これからの共通言語になると述べました。

ロート製薬が語る、商品データ整備の「現在地」
二十年前からのマスターとの付き合い
ロート製薬株式会社 執行役員の樋口氏の自己紹介から始まりました。樋口氏は現在IT全般を統括する立場にありますが、20年ほど前、当時まだ現場の若手だった頃に、システム移行期のさなかで他社様とともにMDM(マスターデータマネジメント:商品や取引先などの基幹データを一元管理する仕組み)を手がけた経験を持っています。今のAI時代も、結局は「マスターの進化」という同じテーマに向き合っているのだと振り返りました。樋口氏はメーカー一筋のキャリアではなく、以前は小売業界に身を置いていた経歴の持ち主でもあります。
多角化した事業を横断する、商品マスタのむずかしさ
続いて登壇したのは、同社DX/AI推進室 兼 基幹情報システム部 データマネジメントグループ マネージャーの坂口 真規氏。営業畑の出身で、ドラッグストアやEC事業の担当を経て、社内のDX推進を担うことになりました。ロート製薬は胃腸薬メーカーとして創業し、その後スキンケア領域へと展開。現在は化粧品が売上の中心を占め、さらに食品や再生医療、植物由来素材にまで事業領域が広がっています。多角化した事業を横断する共通の商品マスタをひとつにまとめる作業は簡単ではありません。
属人化の解消にかけた時間
坂口氏がこの取り組みに着手した背景には、社員が増えるなかで「どこに何があり、誰が何を知っているか分からない」という状況が、片付けるべき課題として認識されたことがありました。当時、投資対効果を数字で示すのは簡単ではありませんでした。ただ、掲げた目的は属人化の解消ではありません。「属人化は、悪いことばかりではないんです」と坂口氏。目指したのは、それが分かる状態をつくることでした。「整わないのは、技術ではなく人の問題」——坂口氏はそう振り返ります。社内を巻き込む際には、あえて多くの人を最初から巻き込むことをやめ、まずは散らかった情報を一箇所に集めることから始めました。社内からは「一つにまとめたら解決すると思うな」という指摘も受けたといいます。それでもこの目的を掲げ続けたことが、現在の土台になっています。
次の競争軸は「入口」と「鮮度」、そして組織の設計
AIが誤読しない商品データへ
前半の議論では、商品情報を整理・意味づけ・可読化・鮮度維持・計測するという5つのステップのうち、特に3番目と4番目が今後の差別化ポイントになるとの見方が共有されました。従来のSEOでは、同じ商品に「10代にもおすすめ」「40代にもおすすめ」といった複数の主張を詰め込むほど検索に引っかかりやすくなりました。しかしAIは、こうした主張の矛盾を信頼できない情報と判断してしまいます。ターゲットを絞り込み、伝えたい文脈を明確にすることこそ、AI時代にはむしろ求められるということです。
ミリ秒単位で変化する「鮮度」という競争軸
在庫のようにミリ秒単位で変化する情報が古いままでは、Googleは検索順位を大きく落としてしまいます。静的な商品マスタの整備が一巡した企業ほど、次はこの動的なデータの鮮度でつまずくという指摘もありました。
「正しさ」ではなく「設計」で勝つ
「商品情報を整えることは、もはや整備の話ではありません。競争戦略のインフラそのものが、一段上がったということです」
坂口氏はそう述べ、これまでの組織の前提のままでは追いつかない、という課題意識を共有しました。カスタマーセンターに集まるお客様の声をどう活かすか、広告表現との整合性、研究開発やマーケティングの知見の組み込み方——商品データの整備はもはや特定の部門で完結せず、全社的なテーマになっている、と続けます。人とAIが戦うのではなく、AIとAIがやり取りする。その前提に立ち、人とAIの業務を設計し、継続的に見直すループを社内に持てるかが問われる、と締めくくりました。
業種を越えて共有された、商品データの悩み
想定外の使われ方に眠るヒント
後半のディスカッションでは、商品が企業の想定していなかった文脈でSNS上に取り上げられ、思わぬ需要につながった経験が、複数の参加企業から共有されました。ある参加企業では、想定していなかった用途がSNSで話題になり、振り返ってみると大きな売上につながっていたことが判明しました。別の参加企業からは、店舗での接客中に生まれる「なぜこの商品を選んだのか」という会話こそ、商品データとして最も価値のある情報だという指摘もありました。こうした文脈は狙って生み出せるものではなく後から発見されるものであり、発見した文脈を一過性の話題で終わらせず商品データとして蓄積し直す仕組みを持てるかどうかが今後の差になる、という議論に発展しました。
部門・ブランドをまたぐデータの持ち方
このほかにも、「商品情報の持ち方が部門・ブランドごとにバラバラである」「どこまでデータを統合し、どこから先は自社の競争領域として残すか、その線引きに悩んでいる」「取引先ごとに異なるデータ形式への変換作業に苦労している」——業種の異なる参加企業から、驚くほど共通する声が挙がりました。ブランドごとの独自性を守りたいフロント部門と、共通基盤で効率化したいシステム部門との間で生まれる緊張関係についても、複数の企業から共感の声が上がっていました。
まとめ
最後には、再び樋口氏に挨拶いただきました。ご自身が長年携わってきた業界内のデータ連携の経験を振り返りながら、そうしたつながりが形を変えて今回のような場にも息づいていると話しました。メーカー・小売双方の現場を知る立場から、業種を越えて集まった参加者同士の縁の深さにも触れ、こうした対話が持つ社会的な意義の大きさをあらためて強調しました。そのうえで、商品データについてこれほど自然に語り合える時代になったことへの感慨をもって、締めくくりました。
商品データの整備は、システム部門だけの仕事でも、DX部門だけの仕事でもありません。今回の会は、業種の異なる企業同士が本音で現在地を共有し合うことの価値を、あらためて示す機会になりました。
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Lazuliは、商品データをめぐるこうした対話の場を、今後も継続的に開催してまいります。ご興味・ご相談は、お気軽にお問い合わせください。