2025年3月12日、Lazuliは株式会社LIXILのデジタル部門をリードする安井卓氏をお招きし、「データ統合戦略によるビジネス革新 〜LIXILの組織設計とデータ活用アプローチとは〜」をテーマに、エグゼクティブ向けイベント「Lazuli Executive Salon Vol.5」を開催しました。今回は、LIXIL社における商品データ管理基盤(PIM)の導入や生成AIの活用を含めた商品情報整備の重要性、さらにその実現に不可欠な組織体制の構築について、実際の社内改革の知見をもとにご講演いただき、第二部ではディスカッションを行いました。
LIXILが取り組むDX(デジタルトランスフォーメーション)の背景
LIXILは世界150ヵ国以上で事業を展開するグローバル企業であり、トイレ・水まわり製品や窓・サッシをはじめ、住宅内の多様な製品を扱っています。合併を重ねて成長してきた背景から、部門・事業ごとに異なる文化や仕組みが存在しており、商品情報の管理も各事業部が独自に行っていました。
このような環境下で同社が重視しているのが、「顧客体験(CX)と従業員体験(EX)の向上を実現するためのDX」です。安井氏はLIXILのCXとEXどちらにも影響したDXの成功事例として、オンラインショールームの展開を例に挙げました。コロナ禍では、リアルのショールーム利用が難しくなる中、オンラインショールームを開始。これにより、顧客は遠方に住む家族とともに家づくりを進めることができ、CXの向上に寄与しました。また、ショールームでの業務が多かった社員は在宅でも接客対応ができるようになったため、EXの担保にもつながっています。
LIXILでは、このようなデジタル化施策を実行し、CX・EXの向上に寄与する施策に取り組んでいます。

データ整備を実現するための組織体制とは
商品データの整備を単なるIT導入では終わらせない。それを実現するためにLIXILが注力しているのが、クロスファンクション体制の構築とリーダーシップの巻き込みです。
LIXILでは2018年からスクラム(ジェフ・サザーランド博士が提唱した、チームが協力し短い期間で成果を出すアジャイル開発手法)を導入していましたが、特に成果が見られたのが、タイル事業部におけるPIM導入プロジェクトです。ここでは、事業部長自らがプロジェクトの旗振り役となり、マーケティングとシステム部門によるクロスファンクションチームを結成。システム変更だけでなく、業務プロセス自体の改革も同時に推進し、情報の整備・連携が大きく進展しました。 このように、部門間の連携が必要な商品情報整備には、「システム導入プロセスの変革 × 組織体制の設計」がセットで必要です。とくに、前工程・後工程を見渡せるクロスファンクション型組織の構築が大きな鍵となります。
商品情報整備の壁とその乗り越え方
LIXILではデータを集約して一元管理し、鮮度や品質、正確性を確保しながら更新しつつ必要なところへデータを配信・活用できる「ワンソース・マルチユース」の実現を目標としてPIMを導入しましたが、「PIMに入れるデータ形式は誰が設計するのか」「データを整備する責任はどこにあるのか」が曖昧なままでは、効果が限定的でした。
現場業務を変えたくないという現場メンバーの心理的障壁も、システムだけでは乗り越えられなかったのです。
こうした背景から、同社は「整備されたデータは自然に生まれない」ことを前提に、以下の取り組みを重視しています。
- 部門横断のチーム構成による全体最適の意識づけ
- リーダー自身のプロジェクト参画による現場の巻き込み
- 過去データのPIM化と、AIによるタグ付け・構造化の効率化
このように、個別最適から全体最適の意識づけを行うことと「何のために、どの粒度で、誰が整備するか」を明確にする体制設計が、商品情報整備成功のカギとなっています。
学びと今後の展望
今回のExecutive Salonでは、商品情報の整備が単なる「社内の効率化」ではなく、顧客接点の変革やデータドリブンな事業戦略の前提につながることが改めて確認されました。
同時に、整備の成否はツールや技術だけではなく、そのための組織体制設計とリーダーシップに大きく左右されることも、多くの参加者にとって共通認識となりました。
LIXILは今後、商品情報管理システム導入をタイル事業部以外にも展開し、生成AIを活用した過去データの構造化やタグ付けの自動化を進めていく予定です。
— Lazuliは企業が使える商品データを取得・整備するための仕組みづくりを引き続き支援し、商品マスタの“全体最適化”によるCX/EX向上に貢献してまいります。
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