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リテールとメーカーのデータ連携が創る未来 Vol.2 〜リテールの形と情報のカタチ〜

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Oct.28.2024
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本記事は、当社のアドバイザーであり、長年にわたり大手コンビニエンスストアで様々なご活躍を重ねてこられた小林敏郎氏によるものです。小林氏によるユニークな視点でリテテールとメーカーのデータ連携により、どのような価値が産み出されるのかについて執筆いただきました。

第2章では、様々なリテールの形態を解説した後、各リテールごとに必要な情報について検討・整理したいと思います。

リテールの形

まずは「リテール」の定義をしたいと思います。前章と同じく、本記事では論点を分かりやすくするために「リテール」が提供する「商品」は有形物であることを前提にします。加えて、その商品はいわゆる最寄り品(食品や日用品など頻繁に購入する商品のこと)であることも前提とします。リテールをこのように絞り込んで定義した時に想定される形態は概ね以下の通りです。

<店舗小売形態>
百貨店、GMS、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ドラッグストア、ディスカウントストア、ホームセンター、100円ショップ、特定商品カテゴリーの専門店(八百屋や魚屋、お酒やタバコのみ取扱う店舗)など、顧客が直接店舗に訪問して商品を購入する形態です。もう少し深堀して2014年~2023年の各チャネル別の店舗数推移を確認してみると、下表のような状況になっています。

形態20142023店舗数変化率
百貨店24018075%
スーパーマーケット8,0018,387105%
コンビニエンスストア51,81455,713108%
ドラッグストア13,06919,028146%
ホームセンター4,1244,476109%
100円ショップ(ダイソーのみ)2,8004,341155%
※1店舗数は公表資料(文末に記載)から筆者が日本国内の店舗数を抜粋。なお100円ショップ(ダイソーのみ)の数値は2014年は2014年7月時点、2023年は2024年2月時点の公表数値となります。

百貨店の凋落が目立つと同時に、ドラッグストアおよび100円ショップの台頭が凄まじいことがよくわかるデータです。ちなみに、ドラッグストアの商品別の販売高を確認してみると、食品の販売高が10年前に比べて約2.2倍(※2)になっており、店舗数の変化率を超えています。このことから、食品販売が店舗数拡大の大きな要因になったことがわかります。

<オンライン小売形態>
Amazonや楽天、ネットスーパーなどのオンラインプラットフォームを通じて、商品を販売する形態です。基本的に、自宅など顧客が希望する場所へ配送しますが、実際に店舗があるスーパーマーケットが展開するネットスーパーでは実店舗や駐車場、店舗備え付けのロッカーで受け取るサービスを実施している場合もあります。経済産業省が発表している「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」によれば、物販系分野のBtoCのEC市場は2022年は約14兆円でEC化率が約9%となっています。10年前の2013年が市場規模が約6兆円、EC化率が約4%だったことを考えると大きく拡大しています。特に新型コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受けた2020年~2021年の2年間でEC化率が2%ほど上昇しており、その後も勢いはやや鈍化したものの市場規模の拡大が続いています。

<カタログ販売形態>
カタログを通じて商品を紹介し電話や郵便で注文、商品を購入するという形態です。テレビやラジオの通販も商品を紹介する媒体が異なるだけで似たような形態です。加えてどの形態に入れるのが良いか少々迷いましたが、生協の宅配事業もこの形態の一種でしょう。ちなみに、生協の宅配事業は日本生活協同組合連合会が発表しているデータによると、2022年度で約2兆1千億円の売上高を誇ります。全国の組合員数も3,041万人(医療・学校生協を含む組合員数/2022年度)と非常に大規模な会員組織を持っていて、かつ玄関先まで冷蔵・冷凍の温度帯を含む商品を配達可能な物流ネットワークも備えていることから、筆者は実は隠れた(隠れてない?!)リテールのキープレーヤーではないかと考えています。
またこの形態はカタログ自体のオンライン化が進んできているなど、近い将来オンライン小売形態に統合されていくと考えられます。

<自動販売機
自動販売機を通じて商品を販売する形態です。一般社団法人 日本自動販売システム機械工業会が発表している自販機普及台数によると、総台数は2023年12月末時点で全国に約264万台設置されています。うち約220万台(84%)が飲料自動販売機です。総台数はピーク時の2000年には560万台を超える台数となっていましたが、コンビニコーヒーの台頭による缶コーヒー需要の落ち込みにより飲料自販機の台数が大きく減少したことや、喫煙人口の減少及び年齢確認の徹底によりたばこ自販機の台数が減ったこと等によりの減少傾向は続いています。一方で人手不足の解消や販路拡大という目的で小売業がオフィスや小商圏をターゲットにした自販機を新設する(例えば弁当などの食品を販売する自販機等)動きもあります。

情報のカタチ

本項ではそれぞれのリテールの形態で、その形態であるが故に必要な情報について特に、①店舗小売形態②オンライン小売形態の二つの視点で考えてみたいと思います。ちなみに必要な情報をどうやって選ぶのかというと、これは実に単純でその情報が売上を左右するかということにつきます。なお、第1章で触れた基本的な商品情報についてはここでは言及しません。

<店舗小売形態>
店舗小売形態では競合店舗に関する情報は必須です。実店舗がある場合には、概ね一番近隣の類似形態の店舗を競合店舗として設定する場合がほとんどです。但し、ドラッグストアで食品が多く品揃えされるようになるなど、従来通り近隣の類似形態の店舗を競合店舗として設定するには問題もあります。最近ではGPSで捕捉した人流データから競合店舗を科学的に捕捉する手法もありますので、うまく利用するのがおすすめです。

また、競合店舗を設定した後には競合店舗の品揃えの状況や、同一商品の販売価格・販売方法(POP等の売場演出やフェース数等の陳列状況)といった情報も大変重要になってきます。これを確認するために、競合店舗に視察に行くこともしばしばあります。それ以外にも客数を左右する要因として最も大きい要素の一つである天候情報や、地域のイベント情報(お祭り、学校の夏休み等の予定、近隣にイベント施設があればイベント開催予定と来場者見込み等)も見逃せません。

加えて会員カードやアプリにより取得しているお客様情報も大変有用です。いわゆるID-POSというデータに加工されて商品開発や品揃え検討、FSPなどの販売促進活動に使われます。特にここ数年、大手流通を中心にID-POSと商品DNAを組み合わせてお客様の特徴を抽出し、独自の「顧客セグメンテーション」を構築することで、ID-POSから得られる情報をさらに拡張する動きも加速しています。

また、お客様と接する従業員の情報も重要でしょう。例えば、コンビニの場合、1店舗あたり15名前後の人員で運営することが多いのですが、当然ながら従業員毎に接客のレベルは異なります。特に、レジ前で販売している揚げ物類などは、お客様へのお声掛け次第で売り上げが大きく変わります。この辺りもデータにより可視化できると大変面白いと筆者は考えています。

<オンライン小売形態>
オンライン小売形態で筆者が最も特徴的だと思うのは「売場」=「画面」をお客様に合わせて個別最適化できるという部分です。これは他のリテール形態では難しいが故に、最も力を入れるべきポイントだと考えていますし、これを実現するための情報が極めて重要になります。例えば、購買履歴やアクセスログデータがこの情報に該当します。この情報をお客様のIDに紐づけてデータベース化することで個別最適化を実現します。

そして、もう一つ特徴的なのが口コミの情報でしょう。商品を実際に手に取って確認できないという小売形態であり、購入前に口コミ情報を確認される方も多いのではないでしょうか?実際に商品を購入したお客様自身が書き込むコメントは商品販売に大きな影響を与えることが知られています。口コミが売上に繋がり、またそれが口コミを拡げるというスパイラルをどう作るかは、もしかすると対外的な広告戦略より重要かもしれません。口コミ情報からは実に様々な情報が抽出可能です。対象商品の評価ポイントはもちろん、改善ポイントやサイトのUIの課題、配送や返品などオペレーション上の課題も把握可能です。どんな情報を口コミ情報から取得したいかをしっかりとデザインしてコメント欄のUIを作ることが成功のポイントになるでしょう。

また、当然ながらリスティング広告やSNS広告などと相性が良いことも特徴です。Web系メディアへの広告出稿のための情報は主に新規顧客獲得にとって重要です。国内のECサイトは稼働店舗数ベースで約455万店舗もある(2023年6月時点/エンパワーショップ株式会社調べ)そうで、実店舗を構える小売店舗数、約287万店(経済産業省/令和3年経済センサス‐活動調査より小売店舗数を集計)よりもかなり店舗数が多く、利用者からすると物理的な距離の制約もありませんので、「選ばれる」ためには緻密な広告戦略が必要になります。広告ターゲット/媒体/キーワード/広告クリエイティブの組み合わせ毎にコンバージョン率をモニタリングしながら広告運用する必要があります。

加えて、ベースとなる自然検索による流入をいかに増やすかも重要です。いわゆるSEOと呼ばれる検索エンジン最適化です。現在では検索数の約3/4をGoogleが占めるそうですが、そのGoogleが掲げる「10の事実」をご存じでしょうか?その1番目に書かれている事実は「ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。」というものです。この事実は、当然、検索順位のランキング評価基準にも組み込まれています。つまり、SEO対策をするうえでお客様理解の深化は必要不可欠ということです。そのためにも、自社の商品やサービスがユーザーのどのようなニーズを満たしているかについて、正しく理解することが求められます。

まとめ

「第2章:リテールの形と情報のカタチ」はいかがだったでしょう。情報にはそれこそ様々な情報があります。但し、最も大事な情報は売上を左右している情報です。その中でも「変えられる」情報が大事です。例えば天候の情報。晴れていれば売上が高いことが分かったとします。しかしながら、毎日晴れにすることは不可能です。この時大事なのは晴れた時にもっと売上をUPさせるために何が変えられるか、晴れではない時に何を変えたら売上低下を抑制できるかを考えるための情報です。どの情報が大事なのか迷ったときにはぜひそこを意識してみてください。

以上で第2章のまとめといたします。最後までご覧いただきありがとうございました。いよいよ次は最終章「第3章:データ連携の価値」になります。ぜひ続きもお楽しみに!

>>第1章:リテールにおける「商品情報収集」の課題

<出典>
※ 1
百貨店店舗数: 一般社団法人 日本百貨店協会HPより引用
スーパーマーケット店舗数: 一般社団法人 全国スーパーマーケット協会HPより引用
コンビニエンスストア店舗数: 一般社団法人 日本フランチャイズチェーン協会HPより引用
ドラッグストア店舗数: 経済産業省 商業動態統計調査 より引用
ホームセンター店舗数: 経済産業省 商業動態統計調査 より引用
100円ショップ(ダイソーのみ)店舗数: ダイソーHPより引用 ※国内店舗数

※2
経済産業省 商業動態統計調査 長期時系列データから筆者が計算