
「実験は終わった」——ラスベガスの大歓声の中でGoogleが宣言した、Agentic Eraの幕開け
Lazuli 代表取締役 CEOの萩原です。
1月、New YorkのNRF 2026でGoogle CEO Sundar PichaïがUCP(Universal Commerce Protocol)を発表したとき、私は「今年はAgentic Commerceの年になる」という確信を持ちました。あれから3ヶ月。今、私はラスベガスにいます。
4月22〜24日開催の「Google Cloud Next 2026」。参加者は昨年の倍とも言われ、会場は朝から圧倒的な熱気でした。現地を歩きながら強く感じたのは、Agentic Commerceがもはや「来るべき未来」ではなく、「すでに動いている現実」だということです。
現地から見えてきた"現在地"を、今回はお伝えしたいと思います。
Googleのメッセージは「Agentic Eraへの移行」

大歓声の中で始まったKeynoteで、Googleが最も強く打ち出したメッセージはこれでした。
「AIの実験フェーズは終わり、エージェントの時代に入った。」
これは機能の話ではありません。Googleが提示したのは、"エージェンティック・エンタープライズの設計図"です。その中核となる5つの柱がこちらです。
① Gemini Enterprise Agent Platform 数千のエージェントを統合管理する"ミッションコントロール"。自然言語でエージェントを構築し、GeminiやClaudeなど複数モデルを横断利用できます。
② AI Hypercomputer(インフラ) 第8世代TPUによって学習・推論のスケールが桁違いに向上。モデル開発のリードタイムが「数ヶ月→数週間」へと短縮されました。
③ Agentic Data Cloud エージェントの判断に必要な"信頼できる文脈"を提供。非構造データの構造化やマルチクラウド横断のデータ活用を実現します。
④ Agentic Defense 脆弱性の検出から修正提案まで、セキュリティをAI自身が担保する仕組みです。
⑤ Workspace Intelligence メール・ドキュメント・チャットを横断し、文脈を理解した上でアウトプットまで自動化します。
「Agent × インフラ × データ × セキュリティ × 業務」を一体で提供し、企業のオペレーションそのものを再定義する——それがGoogleの宣言でした。Keynoteには豊富な顧客事例が並び、プラットフォーマーが各業界の深いところまで入り込んで成果を出す流れが、着実に進んでいると感じました。

Agentic Commerceは"US限定のトレンド"ではない
個々のセッションを見て、私が強く感じたことがあります。Agentic Commerceはすでにグローバルで広がり始めている、ということです。
「これはアメリカだけの話だろう」と思っている方がいるなら、認識を改めていただきたいと思います。
Woolworths(オーストラリア)
オーストラリア最大手小売のWoolworthsは、デジタルアシスタント「Olive」を通じて購買体験を根本から変えています。
「今夜の夕食を考えて」——そんな抽象的な一言から、Oliveはレシピを提案し、必要な食材を選定し、カートへの投入まで一気通貫で実行します。マルチモーダル入力(画像・音声)への対応、コスト最適化、B2B向けの大量発注の自動計画まで担う、まさに"優秀な店員"です。さらに複数AIエージェントによる評価フレームワークを導入し、大規模展開でも信頼性を担保しています。

Bunnings(ニュージーランド)
ニュージーランドのホームセンターBunningsは、エージェント「Buddy」で検索型ECの体験を刷新しました。
「デッキを作りたい」——この一言から、必要な資材・工具を一括提案。画像から商品を特定して在庫確認まで実行し、複数タブを行き来する手間をゼロにします。意思決定からローンチまでわずか数週間というスピード感も、今の時代を象徴していると感じました。

Wayfairの事例が示す"勝ち筋"
今回の中で最も解像度が高かったのが、Wayfairの事例でした。
同社はGoogleと共同でUCPに取り組み、「検索してクリックする」従来のECから、"意図を伝えるとAIが比較・購入まで行う世界"への転換を前提に設計しています。その数字はすでに動いています。
エージェント経由のトラフィックは直近2四半期で倍々成長
従来チャネルを上回るコンバージョン率
一方で、意図が明確な分、ミスマッチ時の離脱も早い
これは従来のECとは"全く異なる購買特性"です。この前提のもと、Wayfairが徹底する戦略は3つあります。
① カタログをAIのために最適化する 3,000万点の商品データを構造化し、"AIにとっての信頼できる一次情報源"になることを目指しています。AIが正確に理解・マッチングできる状態を作ることが、競争優位の出発点です。
② エージェントを"新たなパートナー"として統合する 新規構築ではなく既存のパートナーAPI基盤を拡張し、1四半期未満で実装。PerplexityなどほかのエージェントにもすぐAに横展開できる設計になっています。
③ 顧客関係を手放さない エージェント経由であっても、決済・配送・CSまでWayfairが一貫して担います。顧客データと体験の主導権を維持し続けることが、長期的な競争力につながります。

Ultaが示す「AI×ブランド体験」
米国最大級の美容小売Ultaの事例も、非常に興味深いものでした。同社は4,700万人のロイヤリティ会員を基盤に、美容特有の複雑な購買体験をAIで再設計しています。
成分理解・仮想試着・オムニチャネル連携・シームレスな購買——これだけの要件を満たすため、当初の自社開発からGoogle基盤へ移行。結果、数週間でローンチし、コンバージョン率は4〜6倍に向上しました。
私が最も印象的だと感じたのは、数字よりもそのスタンスです。
「AIはブランド体験を壊すのではなく、CXを構成する重要なタッチポイントになる。」
AIを"効率化ツール"として切り出すのではなく、顧客体験全体の設計の中に組み込む。この視点は、AIの導入を検討するすべての企業にとって参考になるはずです。

ロレアルが示す「スケールするAI組織」
ロレアルの事例は、単なる活用事例ではありませんでした。「AIを全社スケールさせるための組織と基盤をどう作るか」という話でした。
自社開発の「L'Oreal GPT」からGoogleのAgent Platformへ移行(Make→Buy)した結果、その規模は圧倒的です。
週41,000人が利用
月間1,500万メッセージ
ノーコードエージェント30,000以上
150カ国・40ブランドで展開
これを可能にしたのは技術だけではありません。Center of Excellence(作る組織→使えるようにする組織へ)、Governance Task Force(セキュリティ・法務・倫理の統合管理)、現場へのAIチャンピオン配置——組織の仕組みが揃って初めて、このスケールが実現しました。

そして最も象徴的なのが、全社員向けの「Agent Platform Web」です。一般社員が自らエージェントを作れる環境を整備したことで、AIは一部の専門組織のものではなく、全社員が使い、作るインフラになりました。 単なる効率化ではなく、AIを全社的な競争力に変えるアプローチとして、非常に先進的だと感じました。
本質は「商品データのAI Ready化」
初日を通じて、私の中で一つの確信が固まりました。
商品データをAI Readyにできるかどうかが、これからの競争力を決める。
構造化データ、リアルタイム性、API接続、意図理解に対応した属性設計——これらは、AIで何をするにも前提となる基盤です。Wayfairが3,000万点の商品データを構造化し、Woolworthsがエージェントの評価フレームワークを整備し、ロレアルが全社インフラを構築したのも、すべてこの「基盤」があってこそです。
Agentic Commerceはすでに「実装と競争」のフェーズに入っています。その中心にあるのは、間違いなく「商品データ」です。
あなたの会社の商品データは、AIに読めますか?
Lazuliとしても、この領域での価値提供をさらに加速してまいります。
萩原 | Lazuli CEO Google Cloud Next 2026 現地レポート|2026年4月、ラスベガスにて