
商品情報に「ブランドの魂」を入れる|Lazuli Executive Briefing 2026.9.17
こんにちは。
Lazuli CEOの萩原です。
先日、LazuliのChief Evangelistである伴と、Agentic Commerceについて話していました。
伴は、世界中のリテールやテクノロジーの動きを追いながら、Agentic Commerceについて研究・発信を続けており、おそらく日本で最もこのテーマを追いかけている人間の一人です。
その中で、一つの疑問が浮かびました。
AIが商品を選ぶようになると、結局、認知度の高いブランドが圧倒的に強くなるのではないか?
ということです。
Agentic Commerceでは、人間が自分で商品を検索し、一つひとつ比較して購入するのではなく、AIがそのプロセスの一部、あるいはほとんどを代行するようになります。
例えばランニングシューズを買うとします。(最近ランニング好きです笑)
これまではGoogleやAmazonで、
「マラソン シューズ おすすめ」
などと検索して、いくつもの商品を見比べていました。
しかしAIエージェントに購買を任せるようになると、
「次のフルマラソン用のシューズを選んで」
だけになるかもしれません。いや、なります。
さらにブランドへのこだわりがあれば、
「AdidasかAsicsから選んで」
「いつものAdidasで、次のレース用を選んで」
となる。
こうなると、AdidasやAsicsは圧倒的に強い。
AIが商品を探し始める前から、すでに候補に入っているからです。
これまでブランド認知とは、「店頭や検索結果で商品を見たときに選んでもらいやすくするもの」でした。
しかしAgentic Commerceでは、
ブランド認知そのものが、AIへの検索条件になる。
これはブランドにとって非常に大きな変化だと思います。
では、有名ブランドだけが勝つのか?
ただ、もう一つ、全く逆のことも起きる可能性がありそうです。
先ほどのランニングシューズの例で、
「フルマラソンで3時間30分を切りたい。少し足幅が広く、後半にふくらはぎが疲れやすい。自分に一番合うシューズを選んで」
と頼んだらどうでしょうか。
ここでは、ブランド名は指定されていません。
AIが本当にユーザーのコンテキストを理解し、ユーザーの代理として商品を探すのであれば、有名かどうかではなく、
この人の走力に合っているか。
足の特徴に合っているか。
用途に合っているか。
価格は適切か。
どんな特徴や機能があるか。
といった条件から商品を探すはずです。
そこで、これまで本人が知らなかったブランドが選ばれる可能性があります。
これは結構大きな変化です。
実際、私はGarminで計測したランニングの記録をGPTに読み込ませて、その日の走りを評価してもらい、自分に合った靴を提案してもらっています。結局、Adidasのシューズを買いましたが、カーボンプレートは外しました笑
要するに、AIが間に入ると、
「知っている商品」ではなく、「自分の条件に合っている商品」から探す
という購買が、これまでよりずっと簡単になります。
Agentic Commerceは、認知度の高いブランドをさらに強くする一方で、これまで認知度では勝てなかったブランドにとっても、新しいチャンスが得られる、両面の可能性を秘めているのです。
そこで重要になるのが「AIに理解されているか」です。
では、AIに「何を」理解させるのか?
ここで、もう一つ重要なことがあります。
AIが商品を選ぶのであれば、企業側は、
「AIに自社の何を理解させるのか?」
を考える必要があります。
これは単に、商品名や価格、サイズ、カラーといった商品情報をAIに渡せばよい、という話ではなく、
例えば、あるランニングシューズについて、
「幅広の足に向いている」
「長距離でも安定性が高い」
「初心者からサブ3.5を狙うランナーまで使いやすい」
という特徴がある。
AIは、こうした情報があれば、
「フルマラソンで3時間30分を切りたい。少し足幅が広く、後半にふくらはぎが疲れやすい」
という人と、その商品を結びつけることができます。
つまりAIには、
誰に向いているのか。
どんな課題を解決するのか。
どんな利用シーンに適しているのか。
他の商品と何が違うのか。
といった、商品の「意味・コンテキスト」を理解させる必要があります。
しかし、AIが理解すべきなのは商品だけではなく、
そのブランドは、何を大切にしているのか。
どんな価値を提供しているのか。
どんな人に選ばれてきたのか。
他のブランドとは何が違うのか。
こうしたブランドそのものの「意味」も重要になるはずです。
例えばユーザーが、
「多少高くても、環境への配慮を大切にしているブランドから選びたい」
「長く使えて、修理しながら使えるものがいい」
「デザイン性より、プロが使っている信頼性を重視したい」
とAIに伝えたとします。
このときAIが理解しなければならないのは、商品のスペックだけではありません。
そのブランドがどんな思想を持ち、どんな価値を提供しているブランドなのか。
そこまで理解できて初めて、ユーザーの価値観とブランドを結びつけることができます。
だからこれから企業が考えるべきなのは、
人間に何を覚えてもらうのか。
そして、AIに何を理解させるのか。
なのではないでしょうか。
商品についても、ブランドについても同様です。
Agentic Commerceによって、商品データは単なる商品管理のための情報ではなく、AIに「なぜこの商品を選ぶべきなのか」を伝える情報になる。
そしてブランド情報もまた、AIに「なぜこのブランドを選ぶべきなのか」を理解してもらうための情報になっていく。
人間の頭の中にブランドを作ることに加えて、AIの中にもブランドを作る。
これが、Agentic Commerce時代の新しいブランド戦略になっていくのかもしれません。
商品情報に「ブランドの魂」を入れる
もう一つ思ったことがあります。
これから重要になるのは、ブランドと商品を別々にAIに理解させることではないのかもしれません。
一つひとつの商品に、そのブランドらしさが入っていること。
例えば、同じような機能やスペックを持つ商品が二つあったとしても、
なぜこの商品を作ったのか。
どんな人に使ってほしいのか。
何を大切にして設計したのか。
そのブランドだからこそ、どこにこだわったのか。
そこには、本来そのブランドが積み重ねてきた思想や価値観があるはずです。
人間が商品を選ぶときは、それを広告や店舗、パッケージ、接客などから、無意識のうちに感じ取ってきました。
しかし、AIが人間の代わりに商品を探し、比較し、推薦するようになるのであれば、その「ブランドらしさ」もAIが理解できる必要があります。
だとすると、これからの商品情報は、スペックを正確に並べるだけでは足りないのかもしれません。
商品情報の中に、ブランドの魂を入れる。
そんなイメージでしょうか。
ブランドとして何を大切にしているのか。
それが、この商品ではどのように表現されているのか。
そして、この商品は誰に、どんな価値を届けようとしているのか。
そうした情報まで一つひとつの商品に紐づいていれば、AIは単に「スペックが近い商品」を探すのではなく、その商品の背景にあるブランドの意味まで含めて、人に推薦できるようになるかもしれません。
これまでブランドは、人間の頭の中に作るものでした。
だから企業は、広告や店舗、Webサイト、SNS、PRなどを通じてブランドを伝えてきました。
しかしAgentic Commerceでは、その間にAIが入ってきます。
そう考えると、これからブランド企業に求められるのは、
人間にブランドを覚えてもらうこと。
だけではなく、
一つひとつの商品を通じて、AIにもブランドを理解してもらうこと
なのかもしれません。
Agentic Commerceによってブランドがなくなるのではない。
むしろ、ブランドの思想や価値を、これまで以上に商品そのものへ落とし込む必要が出てくる。
商品情報に、ブランドの魂を入れる。
これが、AIが商品を選ぶ時代の新しいブランド戦略になっていくのではないでしょうか。
萩原 静厳
CEO, Lazuli株式会社