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Kimi K3、中国が狙う『AIの標準』|Lazuli Executive Briefing 2026.8.20

Kimi K3、中国が狙う『AIの標準』|Lazuli Executive Briefing 2026.8.20

Generative AI

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こんにちは。

Lazuli CEOの萩原です。

今日は中国のLLMの話を少ししたいなと思っています。

Kimiという名前を耳にしたことがある方も増えてきたのではないでしょうか。

中国のMoonshot AIが開発するAIで、長いコンテキストや高いコーディング性能、AI Agentとしての能力などで注目されています。Anthropic寄りのLLMという印象です。

その最新モデル「Kimi K3」が7月中旬に出てきたのですが、2.8兆もの、AIの知識や能力を形づくるパラメータを持つ巨大モデルであることや、米国の最先端モデルにかなり迫ってきた、という話も興味深かったのですが、もう少し別の観点で興味深いポイントがあったのでメルマガに書こうと思いました。

(2.8兆もすごいのですが笑、1回学習するのに500億くらいでしょうか笑笑)

改めまして、ポイントは、

AIが「答えるもの」から「仕事を完遂するもの」へ変わり始めている

という部分です。

「賢いAI」と「仕事ができるAI」は違う

例えばAIに、

「来週の経営会議に向けて、競合5社の直近の決算を調べ、業績変化の理由と自社への示唆をまとめてほしい」

と頼んだとします。

これまでの生成AIでも、必要な情報を与えればかなり質の高い分析を作ってくれます。

しかし、人間の優秀なアナリストなら、それだけでは終わりません。

まず各社の最新の決算資料を探し、前年と比較する。

数字に違和感があれば別の資料を確認し、理由が分からなければ決算説明会での経営者の発言まで調べる。

途中で間違いに気づけば修正し、情報が足りなければ追加で調査する。

そして5社の情報を比較し、最終的に経営会議で議論できる状態まで持っていく。

つまり、本来AIに達成してほしい仕事とは、

「一回正しい答えを出すこと」ではなく、「ゴールに到達するまで判断と行動を繰り返すこと」

です。

Kimi K3が意識しているのも、この領域のようです。

これまでの生成AIは、私たちが質問すると、その場で最も良いと思われる答えを返してくれる存在でしたが、だいぶ違う流れが出てきました。

ゴールを与えられると、自分で次にやるべきことを考え、必要なツールを使い、その結果を確認する。

うまくいかなければ別の方法を試し、ゴールに到達するまで仕事を続ける。

「良い答えを返すAI」から「仕事を終わらせるAI」へ。

Kimi K3は、その変化の兆しを示すモデルだと思います。

なぜAIが自分で「次の仕事」を考えられるのか

現在のLLMの中心にあるTransformerは、ものすごく単純化すると、

「これまでの情報から、次に何が来るかを予測する」

という技術です。

しかし、想像力を引き上げると、予測する対象は文章だけではなく、

「この数字だけでは業績悪化の理由が分からない」

という状況に対して、

「決算説明会の発言を検索する」

という次の行動も出力できます。

検索結果をAIに戻せば、その結果を見て、また次の行動を考える。

つまり、

考える → 行動する → 結果を見る → 修正する → また行動する

というループを回せるわけです。

これにさらに強化学習を加えることで、

「一回答えが合っていたか」だけではなく、

「最終的に仕事を完遂できたか」まで実施できる。

ということですね。

AIの進化を単なる「回答精度の向上」と捉えると、この変化を見落としてしまうのですが、

この動きから、回答生成システムから目的達成システムへ変わりつつあります。

私はKimi K3を見ていて「次のフェーズが来たか!?」と、非常に興味深く感じました。

そして、もう一つKimi K3で大事なポイントがあります。

それは、Open Weightで公開されていることです。

こちらの方が中長期的には大きなインパクトを持つ可能性があると思います。

ChatGPTやClaudeのようなClosed Modelは、基本的には開発企業が保有するAIをサービスやAPIとして利用します。

企業側はAIに、

「こういう仕事をしてください」

と指示することはできますが、モデルそのものを自由に変更することはできません。

一方、Kimi K3のようなOpen Weightは違います。

モデルの学習結果である「重み」が公開されているため、自社環境で動かしたり、十分な技術力と計算資源があれば追加学習したりすることもできます。

つまり、ここから先は、

「仕事を完遂できるAIが登場した」という話と、「そのAIを誰が所有し、誰が育てられるのか」という話がつながってきます。

「仕事のやり方」まで、自社のAIにできる

Open Weightの意味をもう少し考えてみると、

例えば、先ほどの競合分析でも、企業によって「良い分析」の定義は違います。

ある会社では、必ず一次情報まで確認するかもしれませんし、数字の変化だけで理由を推測せず、経営者の発言まで確認することをルールにしている会社もあるでしょう。

あるいは、情報を網羅的に集めることより、「自社の意思決定にどう影響するのか」を重視する会社もあると思います。

こうした違いは、単なる知識の違いではなく、その会社が長年かけて蓄積してきた「仕事のやり方そのもの」です。

Closed Modelでも、プロンプトや外部システムを使って、こうしたルールをある程度反映させることはできますが、Open Weightでは、十分な技術力と計算資源があれば、自社のデータや評価基準を使ってモデルを追加学習することもできます。

つまり、

「何を知っているAIか」だけでなく、「どう仕事をするAIか」まで自社向けに変えていける。

Agent型AIが仕事を完遂する存在になっていくほど、この違いは大きくなります。

自社の情報が中国に渡ってしまわないのか

Kimi K3は中国企業が開発したモデルです。

自社の重要なデータを使って追加学習したら、その情報がMoonshot AIに渡ってしまうのではないか。

この点は気になりますよね。

しかし、Open Weightの仕組みだけを考えれば、必ずしもそうではありません。

モデルをダウンロードして、自社のサーバーや管理された環境の中で動かし、そこで追加学習するのであれば、学習データが自動的にMoonshot AIへ送信されるわけではありません。

もちろん、MoonshotのAPIや外部クラウド、外部検索サービスなどを利用すれば、データが外部を通る可能性があります。

しかし、それはOpen Weightそのものとは別の問題です。

極端に言えば、機密情報を外部に出さないという観点だけなら、

中国製Open Weightを完全に自社環境で動かす方が、米国製Closed ModelのクラウドAPIにデータを送るよりコントロールしやすい場合すらあります。

「中国製だから危険で、米国製だから安全」というほど単純ではありません。

重要なのは、モデルの国籍だけではなく、

データがどこを通り、誰がアクセスできる状態になっているのか

です。

なぜ中国企業は高性能なAIを公開するのか

そう考えると、別の疑問が出てきます。

莫大な資金を投じて開発した高性能なAIを、なぜOpen Weightとして世界に公開するのでしょうか。

「世界中の企業のデータを集めるためではないか」

と考えたくもなります。

もちろん、そのような意図があると断定できる根拠はありません。

むしろ完全に自社環境で動かせるOpen Weightは、開発元にデータを渡さず利用できるという点が大きなメリットでもあります。

だとすると、中国企業が狙っているものは、各企業のデータそのものではなく、もっと大きなものかもしれません。

データではなく、「標準」を取りにいく

高性能なモデルを世界に公開すると、多くのことがその周りで起こります。

  • 世界中の開発者が使い始める

  • 企業が自社向けにチューニングする

  • 研究者が性能を改善する

  • そのモデルに対応した開発ツールが作られる

  • スタートアップが、そのモデルを前提としてサービスを作る

  • そのサービスを別の企業が使う

こうして利用者が増えれば増えるほど、ノウハウも人材もツールも、そのモデルの周辺に集まっていきます。

開発元が世界中の企業データを直接取得しなくても、

世界中のAIシステムが、そのモデルを前提として作られる状態

を作ることができます。

これは、かなり強いポジションですね。

若干乱暴ですが、かつてのLinuxやAndroidにも似ています。

自分たちですべての製品やサービスを作らなくても、世界中の企業がその技術を土台として製品を作れば、その技術は事実上の標準になっていきます。

AIでも、同じことが起きる可能性があります。

米国とは違う戦い方が興味深い

OpenAI、Anthropic、Googleなど米国の主要プレイヤーは、世界最高峰のAIを自ら保有し、それをAPIやサービスとして世界中に提供しています。

「最も優秀なAIを作り、世界中に使ってもらう」

という戦い方です。

一方で、Moonshot AIのKimi、AlibabaのQwen、DeepSeekなど、中国からは高性能なOpen Weightモデルが相次いで登場し、

「高性能なAIそのものを世界に配り、世界中にその上でAIを作ってもらう」

という戦い方にも見えます。

もちろん、米国にもOpen Weightはありますし、中国企業もClosed Modelを提供しているので、

「米国=Closed、中国=Open」と単純化することはできません。

それでも、中国発の高性能Open Weightモデルが急速に存在感を高めていることは、AI競争を見る上で無視できない動きだと思います。

AIは「答える存在」から「仕事を完遂する存在」へ

Kimi K3を見ていて感じたのは、AIが「モデルの賢さ」でなく、「仕事の完遂能力」という異なる性能問題になっていくかもしれないな、ということですね。

そして、その高性能なAIをClosedなサービスとして提供する米国勢に対して、中国からはOpen Weightとして世界に広げる動きが強まっています。

どちらが最終的に大きな影響力を持つのかは分かりませんが、

誰が最も賢いAIを作るかだけではなく、誰のAIが世界中の企業や開発者に使われ、その上に新しいサービスや仕事の仕組みが作られていくのか、も重要なポイントだな、と思います。

Kimi K3は、中国からまた高性能なAIが登場したというニュース以上に、AI競争が「モデルの性能」から「世界のAI基盤を誰が握るのか」という次のフェーズに入っていることを象徴しているように感じます。

逆に、日本企業としても、入り込んでいく余地が少し出てきたのかもしれません。

これからさらにAI競争が激しくなっていきますが、モデルの性能だけを競うものではなくなっていくでしょう。

製造、金融、小売、医療など、それぞれの産業に特化し、さらに企業ごとの課題や仕事の進め方まで学習したAIが、実際の仕事を動かしていく可能性も多いにあります。(ハサビスがそうでした笑)

Open Weightの広がりによって、そんな「汎用AIから、産業・課題特化型AIへ」という次の競争が、一気に動き出しそうな気がしています。

Kimi K3は、その入口を見せてくれているのかもしれません。


萩原 静厳

CEO, Lazuli株式会社