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ハサビスがCEOを退く。そのニュースが、少し寂しかった。|Lazuli Executive Briefing 2026.8.13

ハサビスがCEOを退く。そのニュースが、少し寂しかった。|Lazuli Executive Briefing 2026.8.13

Generative AI

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こんにちは。

Lazuli CEOの萩原です。

今週、個人的にとても気になるニュースがありました。

Google DeepMindのCEO、デミス・ハサビスがCEOを退くことが発表されました。

正確にはGoogleを辞めるわけではありません。

Google DeepMindの会長、そしてAlphabetのChief Scientistとなり、これまで担ってきた日々の経営やプロダクト開発から少し距離を置き、AGIや科学研究など、より長期的なテーマに集中していくことになります。

「デミス・ハサビスって誰?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

私にとって彼は、「AIが社会を変える力を持っていることを世界に示した人物」であり、とても尊敬している人物です。

2010年にDeepMindを創業し、AIが囲碁世界王者を破った「AlphaGo」、タンパク質の立体構造予測という生命科学の難題を解決した「AlphaFold」、そして現在のGoogleの生成AI「Gemini」へとつながる研究開発を率いてきました。

AlphaFoldの成果は創薬や生命科学に大きな変革をもたらし、その功績は2024年のノーベル化学賞受賞にもつながりました。

AIの歴史には数多くの優れた研究者がいます。

しかし、ハサビスの特別なところは、AIを研究するだけではなく、その力で科学を前進させ、社会を変え、人類の役に立てることを世界に示してきたことだと思っています。

「AIを研究した人」ではなく、「AIで世界を前に進めようとした人」

AIの歴史には、多くの偉大な研究者がいます。

しかし、私がハサビスを特別だと思うのは、AIそのものを作ることが目的ではなかったからです。

彼はDeepMindの創業当初から、

「Solve intelligence, and then use that to solve everything else.(知能を解明し、それを使ってあらゆる問題を解決する。)」

というミッションを掲げてきました。

つまり、AIはゴールではありません。

科学を前進させ、医療を進歩させ、人類がこれまで解けなかった課題を解決するための手段です。

その思想を世界に示した最初の出来事が、2016年の「AlphaGo」でした。

当時、囲碁はAIが人間に勝つにはまだ10年はかかると言われていました。しかしAlphaGoは、その予想を覆し、世界トップ棋士の李世乭九段に4勝1敗で勝利します。

特に第2局で打たれた「Move 37」は、人間のプロ棋士なら誰も選ばないような一手でした。当初は「AIのミスではないか」とまで言われましたが、対局が進むにつれ、その一手が勝利への布石だったことが明らかになります。

AIは、人間の知識を速く再現するだけではない。

人間には思いつかなかった発想で、新しい答えを生み出せる。

世界中が、その可能性を目の当たりにした瞬間でした。

AIの可能性を、社会の価値へ

しかし、AlphaGoはゴールではありませんでした。

ハサビスは、囲碁で証明したAIの可能性を、今度は科学へ応用します。

その象徴が「AlphaFold」です。

生命の設計図とも言えるタンパク質は、その立体構造を予測することが長年の科学的課題でした。AlphaFoldはその問題をAIで大きく前進させ、創薬や生命科学の研究を加速させました。その功績は、2024年のノーベル化学賞受賞へとつながります。

そして、その技術は現在のGeminiへと受け継がれ、多くの人が日常的にAIを使う時代を切り拓いています。

AlphaGoで終わらず、AlphaFoldへ。そしてGeminiへ。

AIの可能性を、一歩ずつ社会の価値へと変え続けてきた。それがハサビスという人なのだと思います。

ハサビスは以前、

「私たちはAIそのものを作りたいのではない。科学的発見を加速し、人類に貢献するためにAIを開発している。」

と語っています。

私は、この言葉にとても共感しています。

AIは目的ではなく、人類を前に進めるための手段なのだということです。

GoogleにはGoogleにしかできない仕事がある

一方で、私はGoogleという会社も、とても尊敬しています。

Googleほど、

「技術によって世界を変える」

ということを、本当に大きなスケールで実現してきた企業は、そう多くないと思うからです。

検索エンジン

Google Maps

Gmail

Android

YouTube

Cloud

そして、Gemini

研究室で生まれた技術を、何十億人もの人が毎日使うサービスへ育て、社会のインフラへ変えてきた。

それは、世界でもGoogleだからこそ成し遂げられたことだと思います。

そして今、AIはGoogleにとって一つの研究テーマではありません。

検索も、広告も、YouTubeも、Androidも、Workspaceも、Cloudも。

あらゆる事業の未来を左右する、最重要戦略です。

世界中の何十億人ものユーザーへ価値を届けながら、競争に勝ち、事業として成長させる。

Googleには、その使命があります。

だから私は今回の発表を見て、ここまでの歩みを振り返ると、この変化は必然だったようにも思います。

ハサビスが見つめているのは、10年、20年先の科学の進歩。

一方でGoogleは、今日も世界中のユーザーへ価値を届け続けなければならない企業です。

求められる時間軸も、果たすべき責任も違います。

だからこれは、どちらが正しいかという話ではありません。

GoogleにはGoogleにしかできない仕事がある。

そしてきっと、

ハサビスにも、ハサビスにしかできない仕事がある。

ということでしょう。

一つの時代が終わり、また新しい時代が始まる

AIの競争は、これからも続くでしょう。

Googleはこれからも、その最前線を走り続けるはずです。

一方でハサビスは、その競争のさらに先にある未来を見続けるのでしょう。

だからこそ私は、この発表を少し寂しく感じました。

Google DeepMindという組織を率いながら、研究と社会実装の両方を引っ張ってきた時代が、一つの区切りを迎えたからです。

でも同時に、ハサビスがもう一度、科学そのものに向き合う姿を見られることが、とても楽しみでもあります。

AIの未来を変える企業は、これからも数多く現れるでしょう。

でも、人類の未来を変える科学者は、そう何人も現れません。

ハサビスが、次はどんな形で人類を前に進めてくれるのか。

私は、それを楽しみにしています。


萩原 静厳

CEO, Lazuli株式会社